自然栽培米専門店ナチュラルスタイルの井田敦之です。
熊本県甲佐町に無農薬・無肥料の自然栽培で「旭×亀の尾」(くまみのり)を作る米農家、緒方弘文(おがた・ひろふみ)さんがおられます。
「旭×亀の尾」(くまみのり)は、栽培が簡単な品種ではございません。
旭×亀の尾は、明治時代における日本の代表的な2つのお米、日本の在来種「旭」と「亀の尾」を掛け合わせて生まれたお米です。しかし現代の農法では栽培しにくい特性があるため、現在ほとんど流通していません。
緒方さんは、なぜ「旭×亀の尾」を栽培しているのでしょうか。ご本人に直接伺いました。
<目次>
左側:ヒノヒカリ 右側:「旭×亀の尾」(稲の背丈が高い)
「旭×亀の尾」は、熊本県の自然農法生産者と農業環境健康研究所が連携し7年の歳月をかけ熊本県で誕生したお米です。
自然農法団体は「お米の原点回帰」を目指し、現代の主流のお米とは対極のお米を追求したのです。
食味でいうと、モチモチ感や甘いお米でなく、あっさりとした食感のお米です。
「旭」と「亀の尾」は現在流通しているお米の祖先ともいわれています。それぞれの系譜をたどると、コシヒカリやあきたこまち、ササニシキなど現在流通しているお米に行き着きます。
1911年(明治44年)京都で生まれた旭は、明治から昭和初期にかけ西日本一帯で広く栽培されていたお米です。大粒で食べごたえがあり、食味も良好。「旭でなければ米ではない」といわれたほど市場価値の高いお米でしたが、病気に弱い・脱籾しやすいといった特徴がありました。
1896年(明治29年)山形県で生まれた亀の尾。旭と同じく、明治から昭和初期にかけ東日本一帯で広く栽培されました。粘りや香りのバランスに優れ、飯米・酒米・寿司米のいずれにおいても評価が高く、日本水稲優良品種の一つでもありました。しかし亀の尾も、背が高く脱籾しやすいという特徴がありました。
在来種といわれるお米の特質の一つが、長稈(稲の背丈が長い)であること。旭と亀の尾も長稈のお米ですが、肥料を与えると倒伏しやすくなるため、現代の農法には向いていません。現在ほとんど作られていないのは、戦後多用された肥料により作りにくい品種となってしまい、生産農家が激減してしまったからです。
つまり、「旭×亀の尾」は、無肥料の自然栽培でないとできない品種です。
実際、熊本県育成を開始した初めの4年間は、稲が倒伏して収穫できる状況ではありませんでした(土に肥料分が残っている)。しかし、無肥料で育て続けることで、5年目には倒伏しない稲に成長。旭×亀の尾は、自然栽培でなければ作ることができないお米だということが分かったのです。
自然栽培に向いているとはいえ、現代では自然栽培そのものが難しく、取り組む農家は0.1%以下ともいわれています。
そんな中、緒方さんはなぜさらに栽培の難しい「旭×亀の尾」の自然栽培に挑戦しているのでしょうか。
緒方さんが「旭×亀の尾」の栽培に挑戦する最大の理由は、「原種に近いお米ほどエネルギーが高い」と考えているためです。
それは、原種に近いからこそ農薬・肥料の力を借りずとも本来備わっている生命力で力強く育つということであり、そのようなお米を摂ることで、私たちに備わっている本来の力も呼び覚まされるということなのでしょう。
緒方さんは「旭×亀の尾」の稲の立ち姿を野性的であるといいます。それもやはり、人の手が加えられていないからこそ感じる印象なのかもしれません。
かつて「西の旭、東の亀の尾」といわれるほど盛んに栽培されていた旭と亀の尾ですが、1970年代にはほとんど作られなくなりました。旭と亀の尾以外にも在来種は各地で作られていた記録があり、昔は1,300種あったといわれていましたが、1973年には8種にまで減ったという調査結果があります。
一方で、在来種の種を守ろうとする動きが盛んになりつつあり、有志団体による保存活動が各地で行われています。旭と亀の尾も、そのような人々の想いによって紡がれてきた在来種です。
旭と亀の尾、どちらの要素も引き継いでいる「旭×亀の尾」。緒方さんは「現代に残していくべきお米」と考え栽培し続けています。
最初は、収穫時期が遅いため用水の水回りの問題などがありましたが、生育期間が長いためか粒の大きさにびっくりしたといいます。そして食べてみると「すーっと体に入ってきて、体が求めているお米」であることを実感したそうです。
アトピーや化学物質過敏症の方にもぜひお試しいただきたいお米です。
Tags: 自然栽培, 無肥料, 亀の尾, 在来種, 旭, くまみのり
Posted by 自然栽培米ササニシキ-在来種・伝統のお米産地直送専門店 at 10:57 / 井田のササニシキなど伝統米を残す活動コメント&トラックバック(0)